2.5と歌舞伎の今後の可能性を感じた双騎出陣

ミュージカル刀剣乱舞 髭切膝丸双騎出陣(以下、双騎)、初日夜公演を見てきました。ついでに言うと千秋楽のライビュも見てきました。


いやぁ凄かった、これは日本の演劇界を変える作品だなと思いました。2.5ってなんだっけ?色んな定義を覆す作品だと個人的には思います。

最初に言っておきますが、私も全てにおいて浅い知識しかなくて知らないところは調べたりしてるので誤りあったらごめんなさいね!

さて、刀ミュ(ミュージカル刀剣乱舞の通称)を見たことがない人のために説明しますと、刀ミュというのは刀の付喪神である刀剣男士たちが歴史を守るために戦う「刀剣乱舞-ONLINE-」というゲームを原作としたミュージカルです。
刀剣乱舞は他にもアニメだったり、ストレートプレイである「舞台『刀剣乱舞』」(通称刀ステ)だったり所謂メディアミックスを様々に展開していて、刀ミュは通常、1部を物語パート、2部をライブパートとして構成しています。
1部では刀剣男士6振(刀なので数え方が“振”です)が様々な困難を乗り越えながら歴史を守るために戦います。2部はミュージカルオリジナルのきらびやかな衣装で刀剣男士たちが歌って踊るなんとも華やかな時間です。ペンラやうちわOK、推しにファンサを貰った日には嬉しさで死にます。

通常は6振なのに対し、今回の双騎では源氏の刀で兄弟刀である髭切と膝丸2振だけの構成です。加州清光というスーパーエリート(キャラとしても中の人としても)が過去に何度か1振だけで単騎出陣を果たしていますが、髭切膝丸の2振での構成は今回初です。


双騎も通常と同様、1部が物語パート、2部がライブパートだったんですが、1部がとんでもなかった。


刀剣男士としての髭切、膝丸はそこにはいなかったんです。

居たのは髭切が演じる兄・曽我十郎祐成と、膝丸が演じる弟・曽我五郎時致。そうです、歌舞伎オタクにはおなじみ、日本三大仇討ちものの一つ、『曽我物語』の主要人物二人です。父親の仇である工藤祐経を討つために曽我兄弟ががんばるお話ですね。(雑)
仇討ちに向かう際に、弟の五郎が箱根別当から授けてもらったのが膝丸なんですよ。その五郎を膝丸くんが演じるんです。胸熱ですよね。
元の刀剣男士のウィッグの色や形は何となく残しながら前髪はちゃんと上げてあったり、元服したら髷になったり、成長につれて衣装がだんだん変わっていったり(裃風の衣装をつけて出てきた時はさすがにときめきが止まらなかった)と様々な魅せ方の工夫をこなし、曽我兄弟が幼少時代にお父さんを殺され、その仇討ちを果たすまでのお話を1時間ちょっとで描くわけです。


つまり若いオタクにも分かりやすくした歌舞伎ですよ。


もはや2.5とは?って感じです。だって髭切と膝丸らしさなんてウィッグとキャラのカラーと途中のソーラン節(※ライブパートのみで構成される公演である真剣乱舞祭2018で髭切膝丸含めた刀剣男士たちが踊っていた)ぐらいでしたよね。幼少期なんてキャラ全く違ったし、成長したら確かに2振のキャラとしての面影は感じだけども。髭切と膝丸の名称すら一言も出てこない。


でもこれって凄くないですか?


刀ミュという人気コンテンツで源氏兄弟という人気キャラで、内容を言わずとも確実に集客が見込める状態だからこそ、そしてファンがそれを受け入れてくれるんじゃないかと、そしてこの難しい役を演者が演じきってくれるんじゃないかと、全てを信じたからこそ出来たチャレンジングな試みだと思うんです。
刀剣男士としての源氏兄弟をただひたすら見たかった人からしたらそりゃ物足りないかもですけど、この背景があって彼らというキャラがいるんですよ…キャラ考察も深まるっちゅう話です…。

あとミュージカル刀剣乱舞くん、マジで芸が細かいなって思ったことがありまして。
2部では普段の源氏兄弟に戻って歌って踊るので、ちょっとしたMCもあるんですけど、兄者(髭切)ってよく弟(膝丸)の名前思い出せなかったり間違えるじゃないですか。(キャラのこと知らない人はそういうキャラなんだなって思っといてください)
その間違え方が1回目「箱王」(曽我五郎の幼名)、2回目「五郎」、3回目「時致」(五郎の本名)で、
最後が「助六」なんですよ!!!!!!
わかります?!あの歌舞伎の超有名演目の「助六」(揚巻っていうキャラが出てくるから、おいなりさんと巻き寿司が入ってるお寿司を助六って言うようになったという由来の演目でもありますね。つまり助六寿司ってキャラをイメージしたフードなんすよ日本人変わってないよね。)ですけど、助六ちゃんって実は曽我五郎で、仇討ちのために源氏の重宝・友切丸(たぶん膝丸。お話によって髭切だったり膝丸だったりするから私にはよく分からない←)を探してるじゃないですか、やだ私去年歌舞伎座で見たわ!!!!!!!七くんの揚巻見たくて観に行って、吸い付けタバコって概念を知ってめちゃめちゃ興奮してた記憶がある!失礼、取り乱しました。

そんなわけで、劇中では「助六」についてなんて一切説明なかったけど、2次元や2.5のオタクだらけのあの空間で何割の人がわかったんだろうっていうね。くっそーこっちの知識を試してきやがる。そういうとこ大好きだぞ。


メイクについても考えてるなって思いました。隈取りの色については結構有名なので分かった方も多いかと思いますが、敵の工藤祐経のメイク、隈取りが青みがかってた気がするんですけど青の隈取りって歌舞伎では悪役なんです。対して血気盛んな男性(正義側)は赤の派手な隈取り。五郎くんあんなに派手に赤使ったメイクだったんすね(ライビュでやっと気付いた←)。
ライビュ見てて突然気付いたのがもう1つ。時折雨の音聞こえるじゃないですか。雨の中の五郎か〜って見てて気付きました。『雨の五郎』って私知ってる。長唄。何度も踊り見てる。もしかして?と思って調べたらやっぱり曽我五郎が元になっていると。いやまさかね…。
あと1部で語り手や曽我兄弟の母や箱根権現の別当を演じた加納さんが、2部で日本舞踊を踊ってたんですけど、その衣装の裏地がですよ、お引きずりの場合でも八掛って呼び方でいいのかしら、銀の鱗文様だったんですよ。鱗文は伝統的な模様だし確かに色々使われてますけど、僕もう日舞の沼の人間だから、銀の鱗文なんて道成寺白拍子花子が大蛇の正体を現したときの衣装しか思い出せないよ〜!!!!あのお役ずっと怪しかったけどやっぱり人ならざる者なんじゃねぇの…って話したら、フォロワーが、踊りの振りも鳥の羽ばたく振りが多かったしやっぱあの人雁だったんじゃない!?って、いや、そうだわ。たぶんそう。
ひとりで興奮してしまったけどどちら側の沼の人でも分かるように説明できてますか?大丈夫??FGOオタクはわかると思うけど白拍子花子って清姫のことね。FGO、沼の香りしかしなくて怖い。いけないいけない、本題に戻ります。



今回2.5の定義をぶち壊したと私は思ったわけですけども、同時に歌舞伎の可能性も感じました。

理由のひとつが、双騎の1部を見て泣いてる人が少なからず居たからです。
キャラ本人は出てこないのに感情移入して泣いている人がいる。つまりこれはお話の力です。もちろん演出や脚本、もうとんでもないくらい工夫がされていますけども、曽我兄弟のお話が、何も知らないオタクの心を動かしてるんです。

私基本的に寝不足なので歌舞伎見てるとすべてがゆったりで眠くなっちゃうことが多いんですよ。(←)たぶん現代と生きてる速度が違うんですよね、多くの歌舞伎の演目が作られた江戸時代って。
その歌舞伎を見ている時に感じていたテンポの悪さとか言葉の難しさを現代劇に落とし込み、次々に場面を展開していくことで解決し、その上で歌舞伎で描き出される日本人の美学はそのまま投影している…。

もともと歌舞伎とミュージカルって親和性が高いんですよね。台詞だけでなく歌や踊りでお話を紡いだりする点がそっくり。しかも刀ミュは演者が全員男性な上、殺陣もあるので尚更です。


脚本の御笠ノ忠次先生には個人的に舞台文豪ストレイドッグスでも死ぬほどお世話になってますけど、本当に感謝しかないですありがとうありがとう。あなたが神か。
あと役者さんの力も凄いです。脇を固める方々はもちろんですけど、やっぱり主役二人が凄い。まだまだ若いのに歌も上手いしそれぞれ分野は違うけどダンスもやってたから体幹がある。体の使い方が分かってるから殺陣や動きに説得力もあるし、何より華があるし本当に将来有望な役者さんたちだと思います。宏規くんなんてレミゼ経て本当に成長したよね…。

日本刀という文化も含めて沢山の日本文化を守ろう、繋げていこうとしてる気概が刀剣乱舞からは感じられて私は大好きです。
余談にはなりますが、以前の刀ミュの作品、『つはものどもがゆめのあと』でも「橋弁慶」、「勧進帳」の場面が描かれていましたね。小狐丸との絡みの中で「義経千本桜」にも触れられていました。全て歌舞伎の超有名演目です。(次の日舞のおさらい会で義経千本桜の一場面である「吉野山」を踊る予定だった私は死ぬほど興奮しました。)
また劇中で平家物語の一節「祇園精舎の鐘の声〜」で始まる『散るは火の花』という曲、今剣ちゃん(源義経の守り刀)が奏でる琵琶の音色から始まるんですよね。琵琶法師によって語られたと言われる平家物語が。個人的にはあの場面、歌舞伎と同じ構図(後ろの人が歌と楽器で物語を奏で、前で歴史上の人物が振りとセリフで物語を描写する)なのがエモエモで好きです。

言いたいことが多すぎてとっちらかってしまいましたが、まぁ何を言いたいかと言うと、
オタクはこれを機に歌舞伎を見てくれ。
そして歌舞伎関係者は双騎を見てくれ。
松竹のお偉いさん聞こえてますか〜!!歌舞伎座で刀ミュやらない〜?!???歌舞伎には若い男の子使って風紀が乱れた過去があるからトラウマかもしれないけどさ〜!!!!

いや歌舞伎だけじゃなくていい、日本の演劇関係者はみんな騙されたと思って見てほしい…。
他の演劇と2.5、歌舞伎って何故かすごく隔たりがあるんです。ちょっと表現方法が違うだけで同じ演劇なのに。ワンピース歌舞伎なんかもそうだと思うんだけどその隔たりをちょっと飛び越えてみようとしたのが今回の双騎だと思うんですよね。(関係ないけどワンピース歌舞伎はMr.2・ボン・クレー役の坂東巳之助くんが本当にボンちゃんでしかないから見て欲しい。)
2.5はここまで出来るんだぞ、ここまでのものを描き出せるんだぞ、っていう挑戦状ですよ。
いやぁ〜好きなんですよね、そういう今まで無かったことに挑戦する姿勢。風当たりが強いと分かっていながらあえてそこに踏み込むその意志の強さ。
だって今回だってメインをライブパートにして、煌びやかな衣装の新規ビジュアルをランダムブロマイドに入れたらもっともっと売上伸びたはずなんですよ。従来のファンが求めるのはそういうのだから。なのにネタバレ防止のために1部の衣装も2部の衣装もブロマイドは無しだし公演の度にネタバレ禁止って演者から言わせる徹底ぶり。
目先のファンからの支持や利益じゃなく製作陣はその先の何かを見てるんですよねきっと。いや私は五郎と十郎のブロマイドも2部の肌脱ぎしたとこのブロマイドもめちゃめちゃ欲しいんで後日通販で出してくれとは思ってますけどね。個人的には歌舞伎座とかで売ってる2L判の舞台写真がいいな〜。

今回の双騎は確実に新しい道への大きなステップだと思います。
色んな意見があると思いますけど、個人的には今後ミュージカル刀剣乱舞がどんな風に進化していくのかが楽しみです。

「ものが語る故、物語。」
次の物語はどんなお話になるのかな!





※考察等は全て私個人の意見です。歌舞伎や日舞の知識はぼんやりと知ったものが多いので間違ってたらごめんなさい。
気になったらぜひ自分で調べてみてくださいね。